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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(し)109号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意のうち、違憲(憲法三一条、三二条、三七条違反)をいう点は、実質は単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、論旨引用の判例は所論のような判断を示したものではないから、その前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であって、すべて刑訴法四三三条の抗告理由にあたらない。

なお、本件においては、刑の執行猶予言渡の取消決定に対する即時抗告棄却決定が執行猶予期間経過前に申立人に対し告知されたことにより、執行猶予言渡の取消の効果が発生したものであって、本件特別抗告の係属中に右猶予期間が満了したことは、原決定を取り消すべき事由とははならない(当裁判所昭和四〇年(し)第二一号同年九月八日大法廷決定・刑集一九巻六号六三六頁参照)。

よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官団藤重光の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。

刑法二七条は「刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ取消サルルコトナクシテ猶予ノ期間ヲ経過シタルトキハ刑ノ言渡ハ其効力ヲ失フ」と規定しているが、ここに「取消サルルコト」とは取消決定が確定することを意味する。刑訴法四三三条の特別抗告には執行停止の効力こそないが(同法四三四条、四二四条)、決定の確定を遮断する効力はあるのであるから(民訴法四一九条ノ二の特別抗告と異なる。同法四一九条ノ三、四〇九条ノ二第一項、四九八条参照)、特別抗告の係属中に刑の執行猶予の期間を経過したときは、刑の言渡は効力を失うものと解しなければならない。私見の理由とするところは、多数意見の援用する昭和四〇年九月八日大法廷決定・刑集一九巻六号六三六頁に付された奥野裁判官の反対意見と全く同一であるから、これを援用する(もしこのような解釈によって運用上の不都合を生じることがあるとすれば、それは改正刑法草案七三条二項のような立法措置によって対処する以外にないであろう)。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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